
2030年度にも本格導入が見込まれるデジタル教科書。一方で、海外では紙教材への回帰や、学校内のスマートフォン規制、子どものSNS利用を制限する動きが広がっています。こうしたなか、子どもの学びをめぐる「紙かデジタルか」という議論が、あらためて活発になっています。
子どもとデジタルの距離感が問われるいま、考えたいのは「紙かデジタルか」という二択ではありません。
子どもが本来持っている知的なわくわくを、デジタルはどう引き出せるのか。そして、その体験は画面の外の世界とどうつながっていくのか。
思考力アプリ『シンクシンク』などを開発してきたワンダーファイ代表の川島慶に、デジタルとアナログのあり方について聞きました。

川島 慶プロフィール
ワンダーファイ株式会社 代表。1985年神奈川県生まれ。栄光学園中学校・高等学校卒業。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。 花まる学習会を経て2014年にワンダーファイを設立。世界150カ国350万ユーザーが利用する思考力育成アプリ『シンクシンク』、STEAM教育領域の通信教育『ワンダーボックス』を開発。Google Play Awardsなど世界的な受賞多数。「算数オリンピック」の問題制作や東京大学非常勤講師も歴任する。2025年7月リリースの『ポケモンフレンズ』にて教育監修・問題設計を担当。著書に『自分の頭で考える子に育つ 学ぶ力の伸ばし方』など。
「デジタルか、アナログか」の二択ではない
いま、子どもにとって、デジタルはどこまで必要なのか。どこからが過剰なのか。多くの大人が、その線引きを考え始めているように感じます。
こうした議論に触れるとき、私はいつも、デジタルを「良いもの」か「悪いもの」かの二択で捉えることには慎重でありたいと思っています。
デジタルは、あくまで道具です。子どもの時間を奪ってしまう使われ方もあれば、子どもが本来持つ好奇心や、試行錯誤する力を引き出す使われ方もあります。だからこそ問われるべきなのは、デジタルかアナログかではなく、どのような思想で設計され、どのように使われるかだと思います。
私たちワンダーファイは、子どもたちの「考えるって、楽しい!」を引き出す思考力アプリ『シンクシンク』や、デジタル教材とアナログ教材を組み合わせた 『ワンダーボックス』を開発しています。そのため、「教育アプリの会社」「デジタル教材の会社」と紹介されることもあります。
もちろん、間違いではありません。
ただ、私たちが目指しているのは、子どもの時間をデジタルで埋め尽くすことではありません。
むしろ、子どもが画面の外で過ごす時間、遊び、会話、絵本や図鑑をめくる時間、街の中の形や不思議に気づく時間が、少しでも豊かになるようなデジタル体験をつくりたいと思ってきました。
『シンクシンク』は、開発当初から1日10分程度の利用を想定してきました。
10分という時間は、子どもが起きている時間の、ほんの1%ほどです。
その1%で、デジタルだからこそできる直感的な試行錯誤や、図形・空間をめぐる豊かな学びを届ける。そして、残り99%のアナログな世界が、少しでも面白く、実りあるものになる。そんなことを願いながら、教材をつくってきました。
デジタルのデメリットをできるだけ避けながら、デジタルだからこそできる学びを、どう子どもたちに届けるか。いま、あらためてその設計が問われていると感じています。
デジタルだからこそ引き出せる、試行錯誤の入口
デジタルには、紙や対面の学びだけでは実現しづらい良さがあります。
たとえば、図形を回転させたり、見えない部分を想像したり、何通りもの可能性を試したりする体験は、デジタルだからこそ、子どもにとって自然で楽しいものにしやすいところがあります。
『シンクシンク』では、そうしたデジタルの特性を活かして、子どもが「考えるって楽しい」と感じられる入口をつくろうとしてきました。

子どもは、何かを面白いと感じると、自然とよく考えます。一方で、考えられるからこそ、その遊びがもっと面白くなるという面もあります。
たとえば、かくれんぼに夢中になれば、「あの木の裏側はどうなっているんだろう」「相手はどこから探しに来るだろう」と想像できるから、かくれんぼはただの追いかけっこではなく、自分なりに作戦を立てる遊びになっていく。
意欲が想像力を引き出し、想像できることがまた意欲を引き出す。そういう循環が、子どもの日常の遊びの中にはたくさんあるのだと思います。
『シンクシンク』で大切にしているのも、こうした「考えること」と「面白がること」の循環です。図形を頭の中で動かしたり、見えない部分を想像したり、いくつかの方法を試したりする。その中で、「こうしたらどうなるんだろう」と、自分から考えてみたくなる。
そうした感覚は、画面の中だけに閉じたものではありません。積み木を組むときや、折り紙をするとき。街の中の模様や形を見つけたとき。友だちと遊びながら作戦を考えるとき。画面の中で経験した「想像してみる」「試してみる」という感覚が、日常のふとした場面とつながり、身の回りのものを面白がるきっかけになる。
そういう意味で、良いデジタル体験は、画面の中だけを楽しくするのではなく、画面の外の世界にも興味を広げてくれるものだと思っています。
アナログには、身体を伴う豊かさがある
一方、アナログな体験には、デジタルには置き換えにくい豊かさがあります。
紙を折る。
積み木を並べる。
ブロックを組み替える。
外を歩く。
虫や葉っぱを見つける。
友だちと走り回る。
本棚の前で「今日はどれを読もうか」と絵本を探す。
図鑑を目的もなくめくる中で、思いがけないページに出会う。
そうした一つひとつの経験の中で、子どもは頭だけでなく、目や手や身体を通して世界を理解していきます。
私たちが『ワンダーボックス』で、デジタル教材だけでなく、毎月アナログのキットも届けているのも、そのためです。画面の中で気づいたことを、手元の教材で試してみる。手元で考えたことが、画面の中の問題を解く感覚につながる。その往復の中で、画面の中で見たことが手触りを持ち、手元で試したことがまた画面の中の発見につながっていく。
理解が一方通行の情報ではなく、その子自身の経験として残っていくのだと思います。

デジタルには、デジタルだからこそできる学びがあり、アナログには、アナログだからこそ得られる手触りがあります。
大切なのは、その両方が、子どもの中でつながっていくことです。
使い終わったあとに、世界が少し違って見えるもの
子ども向けのデジタルコンテンツをつくる以上、私たちは、そのデメリットにも慎重である必要があります。
長時間使い続けてしまうこと。
受け身になってしまうこと。
刺激だけを求めてしまうこと。
強い演出や報酬がないと面白いと感じにくくなってしまうこと。
画面の中だけで体験が閉じてしまうこと。
こうしたリスクを、軽く見てはいけないと思っています。
だからこそ、『シンクシンク』や『ワンダーボックス』では、利用時間や休憩の設計にも注意を払ってきました。1日の利用制限や、一定時間ごとの休憩、保護者が子どもの使い方を調整できる設定なども、そのためのものです。
大切なのは、子どもにデジタルを使わせるか、使わせないかだけではありません。どのように設計されたデジタル体験を選ぶかです。
子どもの時間を奪うのではなく、世界を見る目やその子の感性を豊かにする。
夢中になるだけでなく、画面の外でも考えたくなる。
正解をただ与えるのではなく、自分で試したくなる。
子どもにとって良いデジタル体験とは、長く使わせるものではなく、使い終わったあとに、世界が少し違って見えるものではないでしょうか。
1%のデジタルが、残り99%のアナログな世界を豊かにする。
デジタルを使った時間が、画面の中だけで終わらない。
使い終わったあとに、身の回りの形や動き、遊びや会話が少し違って見える。
そういう体験であれば、デジタルは子どもの日常を奪うものではなく、日常を豊かにする入口になれるのではないかと思います。
■ 思考力育成アプリ『シンクシンク』について

『シンクシンク』は、ワンダーファイが掲げるミッション「世界中のこどもが本来持っている知的なわくわくを引き出す」に基づき作られた知育アプリです。考える力の土台となる5つの分野(空間認識・平面認識・試行錯誤・論理・数的処理)を、網羅的に楽しみながら学べるアプリとして、2016年より各アプリストアで配信を開始し、2025年12月で累計ユーザー数が350万人を突破しました。
Googleによるアプリアワード受賞、キッズデザイン賞受賞など国内外で高い評価を受けており、言語の壁を超え、世界150カ国の子どもたちに愛されています。
https://think.wonderfy.inc
■ 遊びながら学ぶSTEAM通信教材「ワンダーボックス」について

2020年4月にスタートしたワンダーボックスは、デジタルとアナログの組み合わせにより、家庭で子どもの「思考力・創造力・意欲」を引き出すSTEAM領域の通信教育サービスです(対象年齢:4〜10歳)。キッズデザイン賞・グッドデザイン賞・ペアレンティングアワードなど、数多くのアワードを受賞しています。
https://box.wonderfy.inc
