
2026年9月にOECDが公表したPISA2025で、日本の15歳は科学・数学・読解力のすべてでOECD平均を上回りました。学力面では、引き続き世界トップ水準です。
その一方で、「いろいろなことに好奇心がある」と答えた生徒は、日本が63%で、OECD平均の73%を下回りました。
こうした結果をどう捉えるのか。2017年から「意欲格差」を問うているワンダーファイ代表・川島慶に、改めて聞きました。
川島 慶プロフィール

ワンダーファイ株式会社 代表。1985年神奈川県生まれ。栄光学園中学校・高等学校卒業。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。花まる学習会を経て2014年にワンダーファイを設立。世界150カ国・350万ユーザーが利用する思考力育成アプリ『シンクシンク』、STEAM教育領域の通信教育『ワンダーボックス』を開発。Google Play Awardsなど世界的な受賞多数。「算数オリンピック」の問題制作や東京大学非常勤講師も歴任する。2025年7月リリースの『ポケモンフレンズ』にて教育監修・問題設計を担当。著書に『自分の頭で考える子に育つ 学ぶ力の伸ばし方』など。
学力は高い。でも、好奇心は低い?
――PISA2025では、日本の学力は高水準だった一方、好奇心や学び方に関する項目がOECD平均を下回りました。この結果をどう受け止めましたか。
川島:
この結果だけを見て「日本の子どもには好奇心がない」と結論づけてはいけないと思っています。
これまで1万人以上の子どもたちと直接関わり、「シンクシンク」を通じて世界中の子どもたちの姿を見てきましたが、子どもはこちらが思っている以上に、自分なりにものすごく考えています。
大人から見ると、ぼーっとしていたり、手が止まったりしているように見えるときでも、その子の奥では感性が動き、何とかしようと試行錯誤していることがあります。
調査結果を子どもの性質として固定的に見るのではなく、子どもが自分の感覚や疑問を、学びの中で使える環境をつくれているかという問いとして受け止めたいと思います。
――川島さんは、2017年から子どもたちの「意欲格差」について問題を提起されていましたね。今回の結果は、どのようにつながりますか。
川島:
当時、児童養護施設などで子どもたちと接する中で、良い教材や学びの機会が目の前にあっても、そこに手を伸ばせない子どもがいることを感じていました。
教育格差というと、地域や所得、教材にアクセスできるかどうかといった差が語られることが多いですよね。もちろん、それは大きな問題です。ただ、機会がそこにあるだけでは、学びにつながらないことがあります。
たとえば、じゃんけんでさえ「絶対に負けちゃうから」と怖がり、やりたがらない子がいました。じゃんけんは、勝つこともあれば負けることもある遊びです。それでも、その子にとっては、負けるかもしれないことや、できない自分を見せることが、とても怖かったのだと思います。
今振り返ると、その子に意欲がなかったというより、当時の私のアプローチでは、その子に「できない自分」を何度も確認するような体験をさせてしまっていたのだと思います。
同じ「学ぶ機会」でも、問題の出し方や難易度の置き方によって、「またできなかった」と感じる時間にも、「ちょっと考えてみたい」と思える時間にもなる。意欲の有無を子どもの性質として見るのではなく、どんな学習体験をつくっているかを考える必要があります。
だから今は、「意欲がある子」と「意欲がない子」がいる、とは考えていません。意欲や好奇心は、本来、その子の中にあるものです。ただ、それを安心して表に出せるかどうかは、環境や大人の関わり方に大きく左右されます。
そう考えると、「意欲格差」として捉えるべきは、子どもたち自身の状態の格差ではないのかもしれません。子どもの中にある意欲が自然に表れる場を、大人や社会がつくれているか。
PISAの結果も、大人の私たちが、子どもたちの環境を見直すきっかけになるのではないかと思っています。
――今回のPISA2025の調査結果で、高い学力と、好奇心の低さが同時に表れている背景を、どう見ていますか。
川島:
子どもは、置かれた環境にものすごく上手に適応します。
たとえば「シンクシンク」の初期に、考えずに選択肢を連打したほうが高得点になる設計になってしまったことがありました。すると子どもたちは、すぐにそれを見抜いて、そのやり方を使い始めたんです。
これは、子どもが怠けているという話ではありません。子どもは、大人が何を期待し、何を評価しているのかを、大人が想像している以上に敏感に読み、それに応えようとします。
学校でも、正解を出すこと、例題と同じように解くこと、先生や親が期待している答えを返すことが評価される環境にいれば、子どもはそれをどんどん学習します。そして子どもは賢いので、「自分なりに考えるより、教わった通りにやったほうがうまくいく」とハックしてしまうことがある。
もちろん、正しい方法を教わることや、知識・スキルを身につけることはとても大切です。日本がこれだけ高い学力を実現していること自体は、教育の大きな成果だと思います。
ただ、そればかりになると、「自分はどう思うか」「自分ならどうやってみるか」という、自分自身を使う必要がなくなっていく。「自分の感覚や疑問をいったん脇に置いたほうが、うまくいく学び」になってしまうと、自分で考えたり、好奇心を動かしたりする機会は減っていきます。
今回のPISAの「学力は高いけれど、好奇心は相対的に低い」という結果を考えるとき、そこに一つのヒントがある気がしています。
――PISAは、意欲や主体性を個人だけのものではなく、学習環境との関係でも捉えています。AI時代、大人や教育者は子どもの意欲にどう向き合うべきでしょうか。
川島:
AIによって、正解や説明を得ることは、これからますます容易になると思います。もちろん、知識やスキルは大切です。ただ、人間の学びを「正しい答えを出せること」だけで捉えることには、ますます違和感が出てくると思います。
私は、意欲を、その子の感性や関心のアンテナのようなものだと考えています。AIが答えを出してくれるからこそ、何に心が動くのか。何を不思議だと思うのか。何を美しい、面白いと感じるのか。そうした、その子ならではの感性や引っかかりが、学びの出発点として、より見えやすくなるのではないかと思います。
子どもの中にある意欲を、外からつくろうとするのではなく、奪わないこと。そのためには、教材の見せ方や難易度の置き方、失敗したときにどう感じるか、もう一度試したくなる余白まで含めて設計する必要があると思います。
問題の出し方一つで、「できない自分を確認する時間」にも、「自分で考えてみたくなる時間」にもなる。AIが正解や説明をすぐに返せる時代だからこそ、「自分は何に引っかかったのか」「自分ならどうしてみるか」と、自分自身を使って学ぶ経験が、より大切になっていくと思います。
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■ 思考力育成アプリ『シンクシンク』について

『シンクシンク』は、ワンダーファイが掲げるミッション「世界中のこどもが本来持っている知的なわくわくを引き出す」に基づき作られた知育アプリです。考える力の土台となる5つの分野(空間認識・平面認識・試行錯誤・論理・数的処理)を、網羅的に楽しみながら学べるアプリとして、2016年より各アプリストアで配信を開始し、2025年12月で累計ユーザー数が350万人を突破しました。
Googleによるアプリアワード受賞、キッズデザイン賞受賞など国内外で高い評価を受けており、言語の壁を超え、世界150カ国の子どもたちに愛されています。
■ 遊びながら学ぶSTEAM通信教材「ワンダーボックス」について

2020年4月にスタートしたワンダーボックスは、デジタルとアナログの組み合わせにより、家庭で子どもの「思考力・創造力・意欲」を引き出すSTEAM領域の通信教育サービスです(対象年齢:4〜10歳)。キッズデザイン賞・グッドデザイン賞・ペアレンティングアワードなど、数多くのアワードを受賞しています。




